メタリフェルホソアカクワガタ亜種イソガイ
Cyclommatus metallifer isogaii
インドネシア🇮🇩タリアブ島
内容自体はとうの昔に出来上がっていたのですが、半年間も公開することなく時が流れてしまいました。ここまで公開できなかった理由は、、羽化した個体を2024年BE-KUWAレコードに申請していたからです!
今年も複数の応募があったようですが、今回ありがたいことに激戦を制し初の飼育レコードを獲得することができました!!何でもそうですが、初めては格別の嬉しさがありますよね。ちなみに総合評価は⭐︎4.5と、ホソアカではほか数種類と並ぶ高評価をいただきました。またレコード号も前年に続き過去最高の登録数、まさに各ブリーダが鎬を削る激戦の時代になったということだと思います。
それではいつも通り親個体の入手経緯から。2023年6月4日、野外品2ペアを購入。前年と比べるとやや落ち着いたお値段になった感じはありますが、依然として入荷数自体は少なく野外品は高額な傾向にあります。
産卵セット
貴重な野外品ということもあり、急いでマットを用意し6月中旬には産卵セットを組みました。産卵マットをケース下5割詰め、転倒防止で水苔を設置した簡単なセットとなります。材はいいストックがなかったので入れませんでした。絶対に失敗しなくない時は細めの柔材があれば入れた方がいいと思います。デメリットは初令投入ができない、シンプルに割り出しが面倒ってところですかね。産卵セットは1ヶ月半後に解体したところ、1セット目は幼虫1匹というほぼ空振り状態!(ホソアカの野外品って産卵数の当たりハズレ大きいと思います)。そして頼みの2セット目は15匹という結果でした。実は前年も1ペアだけ買ってみたのですが、その時は悲しくも空振りでブリード終了でした。今回は数こそ少ないもののリベンジを果たせました。
幼虫飼育
2023年8月、初令幼虫を1100ccボトルに投入。粗いチップの発酵マット・水分の抜けにくい微粒子の発酵マットをブレンドし、やや多めに加水。三階松プレス機でしっかり加圧して様子を見てから投入しました。高水分とガチ詰めを両立し、全てのボトルが一般的に嫌気発酵と呼ばれる色に変色しているのですが、、、(とにかく話が長いのでここは飛ばしてください)
私はこの変色状態が続くことでマットの新鮮な状態が維持できるのでは?と考えています。というのも植物遺骸の分解速度は「酸性かつ嫌気性の環境で遅くなる」とされています。現代では湿地や湖の底から縄文時代の丸木舟が見つかったりしていますが、これも酸素がない環境では木は分解されずに残っているという話だったはず。
このような水分過多で黄土色に変色したボトルに幼虫を投入すると、初齢・2齢幼虫の2-3ヶ月間は呼吸の取れるボトル上部に留まります。嫌気発酵部分は名前の通り酸素に乏しいことが考えられ、初令の段階では通気の関係で潜っていくことができないのではないでしょうか。(これは酸素濃度測定器も買わないといけないのでは…)飼育者のいちイメージですが、空気の通り道を確保しながら餌を食べている印象です。最終的に3齢幼虫になると食い進む力が出てくるので、変色した部分を自力で掘り返しながら坑道をボトル下部まで広げ、そこで新鮮な餌を食べることができていると想像(ほぼ妄想)しています。
当たり前ですが食い進むパワーは雌雄によって大きく異なります。私は雌雄判別の難しい初令でボトルに投入し一本で羽化させるので、メスにとってはやや食いづらく上部3割ほどしか食い進めていないこともあります。(うちではメスがデカくならないのはこれが原因かも)厳密にいえばオスとメスで詰め圧を分ければ良いのかもしれませんし、そうでもないかもしれません。また同じホソアカでも食い進み力は種類にもよりますね。個人的にアラガールが最も強く、メタリは普通、オオズ系はやや弱め、コフキ系小型キクロはさらに弱かったと思いますので、どんな種をやるにしてもそのあたりを調整しつつの飼育になってくるのではないでしょうか。
長話失礼しました笑。あと重要なのは温度ですよね。他の方々の飼育状況を見て極端に冷やす必要はないと判断し、やや低め(20-21℃)で温度管理しました。同じ構成内容のボトルをペレメタを飼育している友人に6本ほど譲ったのですが、夏場の常温管理で70mmほどでした。当時はせっかく詰めたんだから温度管理頑張ってよと思っていましたが、改めて低温管理の重要性を認識する良い機会だったと思います。
同年11月下旬にはメスが、2月上旬からオスが順次蛹室を形成し始めました。ある程度環境を整えても約2ヶ月はずれてしまいますが、まともに管理すればメスでも半年以上は生きると思うので問題はないと思います。
新成虫羽化
翌年1月中旬〜メスの羽化が始まりました。初令で雌雄判別無しで投入しているので、オスと同じ環境下で育てています(メスとしてはかなりVIPな対応)。今回羽化したメスは26-29mmの範囲でした。イソガイも30mmまで出されている方もいるようで、うちの環境はメスを大きく育てる条件とは若干違うようにも思います。そしてisogaiiの特徴ですが、全体的にどの亜種よりも艶が強いのが特徴的!もはやメスの方がイソガイらしさが分かりやすいと思います。体色はある程度ライン差などがあるとは思いますが、今回は黒〜赤褐色感が強かったです。
2024年2月21 日、オスの最初の羽化個体を確認。他のブリーダーさん達も言及されていましたが、本亜種は微妙にサイクルが早い印象です。
❶オス79mm
一発目は直線的な顎と赤っぽい体色の個体。今回の羽化個体では一番小さいのですが、イソガイというとこんな感じの個体をイメージされる方が多いのではないでしょうか。たしか図鑑でも80UPの標本って載ってないですよね。タリアブ島の虫は生体・標本ともにあまり入荷がない傾向にあると思います。
❷オス81.5mm
こちらは先ほどの個体と違いグリーン強めの体色。羽化直後は頭部〜顎にかけてうっすらブルーがのっていて実に綺麗でしたが、固まると落ち着きましたね。ここからグリーン派生の色味を狙ってみるのも楽しいでしょう!有力種親候補です。
❸オス87mm
ここでいきなり頭ひとつ抜けたサイズが羽化。23年度と比べてレコードオーバー。ここまでの羽化個体のサイズをみてちょっと今年の更新は厳しいかな〜なんて思っていたので驚愕しました。この個体は幅にもっていかれた感はありますかね。同ラインでも体格差はあるようで、レコード争いの1〜2ミリは体格差ガチャという運要素も大きいはずです。
野外個体と比べて見えにくいですが、腿節には黄紋が出現しています。この黄紋、出現面積に個体差があるのと、黄紋の全く出ていない個体が数匹羽化しており、同腹でもこれだけ差が出たのは面白かったです。こちらが拡大写真↓
❹84mm
こちらはサイズこそレコードに届きませんでしたがスタイルに関しては抜群でお気に入りの個体!磯貝らしいほっそりした顎で、中央の一番大きな内歯がかぎ爪状にグッと曲がっているところも魅力的。
❺オス85mm
後半になるにつれて、段々と大型になっていますね。こちらはやや暗みの強い色合いでツヤは控えめです。野外品と比べると、相当見分けが分かりにくい個体も出る印象です。
❻82mm
お世話になっている虫屋さんの手元に渡りました。特にサイズは大きく出ていないので写真撮影はありません…
❼88mm
またしてもレコードオーバーが羽化!この個体が9匹の中では一番大きかったのでむし社にレコード申請しました!
ここまで大きくなってくれると感無量です。残念ながら撮影時には顎先が欠けちゃいました。
❽80mm
これに関してはボトルの状態が微妙だったと思います。やはり一本返し飼育の最大の鍵は、最後まで良好な環境を維持できるか?というところなのでしょうか。飼育の質を上げるにはあと少しのこだわりが必要であると痛感しました。
❾81mm
こちらはコバエが湧いてしまいボトルの状態が最後劣化してしまい全然伸びていません….
こういうのは本当に勿体ないので無くしたいですね。
産卵セット
5/22に1組目のペアリングを開始!先述のグリーン強めのメスに、メスは赤みの強くないものを厳選してペアリング。レコード個体の方は6月初旬から3メス連続でペアリング。詳しくはわたくわさんのブログの飼育記にも書いてあるのですが、ペレン島の亜種finaeと比べると若干気性が荒い印象ですね。ペアリング期間は短めの2日間。餌場ですぐに出会ってメイトガードしてもらいたいので、ゼリーを3日ほど抜いてからペアリングさせています。
ブリ部屋で一夜明けた朝に見てみると大抵メイトガードしています。絶やすわけにはいけないのですが、正直自分の場合翌朝に解除することもあります。
7月初旬に壁面で幼虫を観察したので割り出し!
1セット目から14匹、2セット目からは27匹という状況です。その後も全部で4セットを作成し、孵化を確認し次第ボトルに投入していたのですが、9月に入って色々と多忙になり、割り出しが10/9とかなり遅めになってしまいました。当初幼虫はかなり見えたのですが、割り出し時に全然幼虫が少なくて驚きました。幼虫も少し凶暴なんですかね?同時期に幼虫を確認していたペレメタは全然減っていない印象だったのでがっかりでした。人生初のレコード血統ですからね、一頭でも多く抱えたかったんです。まあ全部で60匹以上を確保しましたので、次世代が安泰な状況ではあります。
そして昆虫ショップKPW様に依頼していたPPボトル1100ccが300本着弾。ホソアカでは好成績のボトルだったのでメルカリでちびちび買い足していましたが、ようやく今年から大規模運用できます。さてだいぶ長くなってしまいましたが、記事もようやく終盤です。本亜種は野外品の入荷機会も少なく、他亜種と比べて存在自体があまり認知されていないように思われます。今回のブログを機に興味を持っていただけたら嬉しいです。来年も更新を目指して飼育を継続していきたいと思います。今後は私の主催イベントなどを中心に余品を出していけたらと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。